おふざけ二次創作集

7.かぐやの報告書(竹取物語)

参考文献:青空文庫より竹取物語【和田萬吉】ですが、かなりはちゃめちゃに改造してしまいました。もはやほとんど原型をとどめておらず(^^;)

 かぐや姫は月へ帰ってしまいました。
 
 そして。
 迎えの宇宙船に乗り込んだかぐや姫。迎えの人々への挨拶もそこそこに、船内の一室へ入りました。
「ああ、重かった。なんでこんな服が好まれるのかしら」
 金属製自動扉が閉まると、すぐに重い着物をすべて脱ぎ捨てました。
 彼女の後ろからついてきた船員の女が散らかった着物を片づけます。
「おかえりなさいませ。お疲れ様でした」 
 船員の女は、六本ある手をくにゃくにゃ動かして喜びを示しました。
「手は二本ですか。すばらしい順応力でございます。どこから見ても地球人そのものです」
「地球人に見える? でもやっぱり浮いていたみたい。私と同時に他の地区に派遣された他の人はどうなったの?」
「残念ながら帰還命令通信を受け取っていないようです。迎えに行きましたが誰も収容できませんでした。おそらくは全員絶望かと」
「みんな死んじゃった? そうかもしれない。体が光って目立ちすぎだったから、とにかく目をつけられやすいのよ」
 かぐやはそう言いながら、室内に用意されていたゆったりしたドレスに着替えました。
「あちらでの生活はいかがでしたか?」
「すごくおもしろかったけどね、ちょっと信じられないことがいっぱい。この髪、今すぐ短く切って。あの星の人たちはこんなに暑苦しいのに、ろくすっぽ髪を洗わないのよ。汚いったらありゃしない」

 かぐやは、髪を首の下まで切ってもらい、部屋の隅の壁に固定された椅子に腰かけ、用意された温かい飲み物を口にすると、にっこりと笑みを浮かべました。
「ほっとしたわ。無事に帰れてよかった。とにかくね、地球人ってみんな変。特に結婚観が理解できない。顔も見てない男がうようよ寄ってきて、私とどうしても結婚したいって言い張るの。ありえないわ」
「あちらの人はみんな、顔も知らない相手と結婚をするのですか」
「そうみたい。会ったこともない私と結婚するために命をかける人までいた。キチガイばかりよ」

 そこへ扉がノックされ、しわひとつない丸い顔の男が入ってきました。真ん丸な目をしている男の頭は、髪が全くなく、つるりとした地肌は脂ぎって船内の照明を反射して光っています。
「ご苦労だった、マル、いや、地球名でかぐやと呼ぶべきかな?」
「どっちでもいいわよ、デーブ。あなたが迎えに来てくれたのね」
 かぐやはうれしそうにデーブに飛びつこうとしましたが、彼は一歩下がって眉を寄せると、まじまじとかぐやを見つめました。
「無事で何よりだが、すいぶん地球人臭くなったな。別人のようだ」
「中身は変わっていないわ」
「手が二本しかないし、何よりもその毒々しい黒い髪が気持ち悪い。故郷へ戻ったら順応して変化するまでは剃り落すか染めるか、なんとか工夫しろ。それにその体、ちょっと細すぎやしないか。君らしくない」
 デグはくにゃくにゃ動く数本の手で、たるのような自分の胴体をぽんぽんとたたきました。
「前と同じに丸くなれ、とまでは言わないがせめて俺ぐらいには戻ってほしいものだ」
「あっちの人たちはろくなものを食べてなかったから、体が貧弱でも仕方がないでしょ。それよりもねえ、せっかく久しぶりに会えたんだから、今夜は」
 かぐやが甘えた声を出して、彼にまた飛びつこうとしましたが、またしても彼はかぐやに触れることはしませんでした。
「報告書提出が先だ。まさか、地球生物をさぐる任務を忘れていたわけではなかろうな」
 彼の冷たい言葉に、かぐやは一瞬言葉に詰まりましたが、すぐに自分を取り戻しました。
「わかりました。すぐに地球での生活報告書を出すから」
「そうしてくれ。個人的に話を聞くのはそれからにしよう」
 彼はさっさと出て行ってしまいました。

「なによ、もう! あのしかめっ面ったら。あんなにピカピカしたいい男なのに」
「デーブ様はあんな物言いでも、マル様のことをずっと心配なさっていたのですよ。他の派遣員は全員回収できなかったのですから。きっと、ほっとなさってあんな態度をおとりになったのでしょう」
「そう? それならいいのだけれど。彼って、そんなに細い体が嫌なのかしら。今に見てらっしゃい。前のように魅力的で丸々した体に戻ってみせるわ。彼、私とおなかボヨンボヨン遊びができなくなって不満なのよ」
 かぐやはブツブツ言いながら、船内に据え付けのコンピュータに向かい、報告書を打ち込み始めました。


【地球人生活観察報告書:着陸場所、北半球の島××地点】
◆人々には手が二本しかなく、光るものを好む。特に金には異常な執着や興味を示す。潜伏していた竹が光っているだけで興味を持ち、切り取って持ち去ろうとした。
◆きわめて不衛生。髪を長く伸ばす習慣があり、臭くても気にしない。排泄物を作物製造の肥料としてに使っている。
◆非常に動きにくく装着しにくい服を重ね着している。一部の者には専用の戦闘服もあったが、防御力は低い。
◆食糧事情は悪く、人々はほとんどが小食で小柄。やせ細っている者が多い。我々のように丸い体の者は見当たらなかった。
◆人々は疑い深くはない。衛星『月』に人が住んでいると思っており、『かぐや』が月から来た姫だと言うと簡単に信じた。他星に人が存在している事実は把握していなかった。文明発達は非常に遅れており、飛行技術すらない。
◆自動点火できる暖房器具は一つもない。
◆通信機器も未発達。手で情報を書いた紙を届ける、あるいは、相手先へ出向いて直接口で伝える以外に情報を伝える手段はない。
◆顔も知らない相手と評判だけで結婚する習慣がある。
◆つまらないことに命をかける。実際に、無理難題の試練を押し付けてやると命を落とした者もいた。試練に挑戦した者の中に特殊能力者は見つからなかった。特殊能力者が付近に潜んでいる気配はなかった。
◆世の中で一番偉いのは帝。帝は独自の軍を持っているが、手で折れる軟弱な弓矢や棒の先に付けた刃物などで我々と戦えると信じており、部下はみな無能。

【まとめ】
以上のことから、××地点の文明はまだ原始段階。
人々は同じ民族同士での戦闘行為はするが、他星からの侵略危機意識は全くなく、我々の脅威となることは考えられない。××地点を観察した限り、現時点で衛星『月』での資源採掘で争いになる可能性は無きに等しく、先制攻撃による制圧をする必要はない。

「さ、報告書ができたわ」
 かぐや姫と呼ばれていた女の宇宙人は、台車で運ばれてきた牛の丸ごと焼きに駆け寄ってかぶりつきました。
「私、今からいっぱい食べて、魅力的な体になって、彼の女に戻るわ」


 母星へ帰るまでの長い航海の間中彼女は食べ続け、元のような魅力的な丸い体に戻ったということです。

 現在、かぐやは彼とよりを戻し、今日も二人でボヨンボヨン腹アタック遊びを楽しんでいます。地球調査手当をもらってすっかり裕福になり、たくさん食べては眠る生活を送っています。
 かぐや姫は地球では幸せになれませんでしたが、故郷の星では最高に幸せな女になりました。
 今日もいっぱい食べて丸々、ゴロゴロ、ボヨンボヨン。

 
 (おしまい)



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