番外編届いた贈り物 後編
  
  「結婚祝いにこんなのって! 変態本とムチと手錠なんて、あのじじいいったい何を考えているのかしら」
   アリシアは不快そうに眉を寄せ、エディンは苦笑していた。
  「とりあえず、お礼の手紙を書いておこうか」
  「ちょっと、エディン! お礼って……ありがたく使わせていただきますって書くの? なんか、それじゃあ、わたしたちがおかしな趣味だと思われていやよ」
  「すばらしい品をいただき感謝していると書いておいた方が、きっとあの人は自己満足して幸せになれる。ただの社交辞令だけどね」
  「そういうのが常識なの? 本当は全部送り返したいわ」
  「ガルモ家が王家とかかわっている以上、城の医術師であるロムゼウ先生にはまたお世話になるかもしれないんだから、冷たい扱いはしてはいけないよ。捨てるとしても、絶対に拾われない場所に捨てなければいけない。本は燃やせばいいけど、手錠はどうすべきかな。庭に埋めておこうか」
  「なんか面倒ね。そうだわ、ジーク様にお見せしたらどうかしら? 変わったご夫婦だから、お喜びになるかも」
   それはエディンも名案だと思った。
  
  
   その夜も地下通路を使ってジーク王子とニレナ妃がやってきた。エディンは、ジーク夫妻にロムゼウからの贈り物を見せてみた。
   ジーク王子は箱の中の本すべてを順に手に取ると、ニレナ妃と視線を交わした。ニレナ妃も、ふふ、と笑う。
  「ロムゼウは言ったとおりにしたのだな。エディン、この本はロムゼウが私に以前見せてくれたものと同じなのだよ。実は、ロムゼウはエディンの結婚祝いにこれはどうかと相談してきたのだ。
   ニレナ妃がニコニコと笑いながら付け足す。
  「どれもとてもすばらしいご本ですわ。参考になったから、ぜひ、伯爵家でも読んでいただきたいと思って、わたくしもその本を贈ることに大賛成しましたのよ」
  「そ……そうでしたか……お心遣い、ありがとうございます」
   ――って、このご夫妻はこの本を参考にしたのか。
   数冊の本はどれもこれも、何も身に着けていない男女の絵が入っていて……一応医術書のようではあるが。
   エディンが、アリシアと笑いの汗をかいているうちに、王子はムチと手錠セットを取りだした。
  「なんだこれは……こちらは頼んでいないぞ。ロムゼウの趣味か」
   アリシアが待ってましたとばかりに口をはさむ。
  「ジーク様、そちらはガルモ家にはもったいない品でございます。よろしければ、お使いくださいませ」
  「いや、せっかく彼が祝いにとくれたのなら、エディンが持っているべきだ。寝室に置いておくとよいだろう」
   ――寝室って……置いてどうするんです、ジーク様?
   聞けないまま、エディンはムチと手錠を返された。
  
   その後、ムチは馬用に使うことにしたが、手錠を捨てるにしてもどこへどう捨ててよいかがわからなかった。
  
   ガルモ伯爵の寝室には、伯爵が結婚後数年を経た今でも、例の「医学書」と手錠が置いてあるらしい。それが有効に使われたかどうかは、ガルモ家の人間だけが知っている。
  
     【届いた贈り物 了】