1.なんでわかってくれないの?(人魚姫)
『王子さま、あなたを助けたのは私です』
人魚姫の声は出ないので、何度繰り返しても、王子に思いは届きません。これ以上黙っていては、王子は他の女と結婚してしまいます。そこで、彼女は強硬手段に出ました。
【私があなたを助けました】
紙に、赤字で大きくそう書き、その紙を折りたたんで握りしめ、王子の寝室へ向かいました。そして、眠る王子の上へガサガサと大々的に広げた時、王子がその気配でふっと目を覚ましました。王子は、自分の目の前にある紙に書かれた文字を、不思議そうに見ています。
見てくれている、自分が助けた本人だとわかってもらえたと思うと、人魚姫はうれしくなり、王子に向かってにっこりと笑いかけました。王子は人魚姫の目を見ながら、やさしく言いました。
「妹のようにかわいい君、これは何のおまじないだい?」
紙に書かれている言葉は、人魚語だったので、王子には読めなかったのでした。人魚姫は、王子が理解していないとわかると、ショックのあまり、気が動転し、紙をくしゃくしゃに丸めて後ろへ放り投げました。それだけでは、気が済みません。泣きながら、ベッドの上にいる王子に飛びかかりました。
――こうして、人魚姫は、王子の子を身ごもることに成功しました。めでたし、めでたし……だよね?
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