11. 
 静かに数日が経過。三助が兵衛の別宅で死んだ日から明日で一週間。
 兵衛の別宅にとどまって静養していた菊千代は、だるい体を押して松川楼へ戻る準備をしていた。三助の躯が発見され、妹が自分の代わりに取り調べを受けたことを聞いた。
 吟味がまだ終わっていない今、妹と交代するのは時期尚早だと兵衛は考えていたが、菊千代に、どうしても小梅の披露目に立ち会いたい、顔のあざは少しは目立たなくなった、妹にいつまでも身代わりをさせて迷惑はかけられない、と何度も涙で強く訴えられ、しぶしぶながら小梅の披露目が終わればすぐにまた交代する、という条件付きで、民子と一時交代することを許した。
 しかし、民子はすでに小梅と共に吉原へ戻っている。菊千代がそこまでたどり着くには多くの障害があった。
 まずは吉原唯一の出入り口である吉原大門を通過しなければならない。松川楼では事情を知らぬ楼内の者に見られぬよう民子が待つ部屋まで上がることも至難の業。無事交代し、民子を吉原から脱出させるまでは気が抜けない。

 十一日の昼、菊千代は念入りに化粧し顔のあざをごまかし、三助に切られた前髪は横の髪に張り付くよう撫でつけて油で固め、その上から頬かむりをし、兵衛の別宅の裏口から密かに徒歩で出発した。まだ消えていない首の絞め痕は手拭いを首に巻いて隠す。
 松川楼まで同行するのは、兵衛が用心棒として付けてくれた体格のいい若い男と、民子の夫。
 菊千代が初めて会った義理弟は、いかにも若旦那という感じがするひょろっとした体つきの頼りなげな男だったが、状況はしっかり把握できているようで、菊千代に丁寧に挨拶すると、民子と交代する手順をわかりやすく説明してくれた。

 三人は、松川楼から注文を受けた饅頭屋の配達に扮し、本物の饅頭が入った複数の木箱を包んだ風呂敷を抱きかかえて歩いた。途中、菊千代の体調不良で何度か足を止めたが、どうにか吉原大門のすぐ手前、衣紋坂までたどりついた。昼間で人通りは夜ほど多くはないが、歩いている人はちらほらいる。魚売りなどの棒手振りも複数いて、饅頭屋の紋が背中に入った上掛けをまとった菊千代たちが特別目をひくことはない。
 覚悟を決め大門へ向かう。
「呼びとめられても堂々としていれば大丈夫のはず。俺たちは本物の饅頭屋ですから」
 守り役の男が先に立ち、その後ろを菊千代と民子の夫が並んで歩く。黒い大門が近づいてきた。吉原唯一の出入り口には、その日もいつも通り、遊女逃亡を防ぐための監視の男が立っている。門の両側に分かれて立つ男たちの間を抜けようと――
「待て、そこの女。なぜ顔を隠している」
 背を丸めて歩く菊千代は呼び止められて、ひっ、と息を飲んだ。片方の男が菊千代に近づいた。
「あ、浅草の饅頭屋です。夫と番頭と一緒に、注文を受けた饅頭を届けに行くところで」
 菊千代は、顔の上半分を覆っていた頬かむりをおでこまで自分で上げ、髪の切られた部分までは見せないようにして顔を見せた。顔は化粧しても薄黒い痣が隠しきれなかったが、男はそれについては何も問わず、菊千代の恰好を上から下までしっかりと見ている。
「饅頭屋か」
 監視の男は一行が持っている風呂敷包の匂いを嗅いだ。
「うむ。間違いなく饅頭のいい匂いだ」
「旦那、おひとつ味見してくだせえ。浅草の白饅屋でございます。以後、ごひいきに」
 民子の夫がさっと風呂敷包をほどき、慣れた手つきで饅頭を取り出して、男にひとつ渡した。
「おお、すまぬ。ここは初めてだな? 見かけねえ顔だ。行商ならばここは自由に通ってよいが、商人同士のなわばりもあるから気をつけろ。それから、女がここは入るときは誰もがそこの茶屋で出入り許可の札をもらって入る決まりだ。おぬしらはここの決まりを知らんようだから教えてやるが、これは遊女の逃亡を防ぐ策でな、めんどうだが、もらった札は、出る時にきちんと帰すように」
 男は饅頭をほおばり、菊千代たちから離れた。
 菊千代たちは汗を流しながらも、ほっと息を吐き、すぐ横の茶屋で言われたとおりに出入り用札をもらい、仲之町へ進んだ。
「義姉さん、大丈夫ですか。具合が悪そうだ」
 民子の夫が心配そうに菊千代に声をかける。菊千代は気力で歩いているようだった。化粧をしていても顔色がとても悪いことはわかる。
「もう少しだから……辛抱できやす。ほら、あの建物」
 菊千代は奥の方の半籬(はんまがき)の見世を指差した。楼の前には、打ち合わせた通りに、佐之吉が外でさりげなくそうじをしながら待っていた。民子の夫が職人らしく挨拶する。
「まいど、白饅屋です。ご注文の饅頭を届けにまいりやした」
 佐之吉に呼ばれたお藤がすぐに中から出てきた。
「饅頭屋さんね、ご苦労さん。裏口へ持って行っておくれ。佐之吉、案内しておやり」
 佐之吉は普通の顔で裏口へ一同を導き、木戸の中へ招き入れると、入ってすぐ横にある狭い行燈部屋へ三人を案内した。
「ここで今しばらくお待ちを。お静かにお願いします」
 三人は声を出さずに首を縦に振る。饅頭箱を受け取って姿を消したお藤の声が聞こえた。
「みんな、饅頭の付け届けがあるよ。全員の分があるから、食べに出てきな」
 パタパタと廊下を走る音や階段を下る足音と共に、複数の遊女や男衆たちの話し声が聞こえてきた。この楼内にいる人々が一部屋に集まっていく。三人はただひたすら息を殺して様子を想像した。
 佐之吉と小梅以外で、この妓楼内で事情を知っているのはお藤と番頭のみ。現在、菊千代の部屋にいるのは民子だが、入れ替わっていることを他の者は知らない。部屋で寝ているはずの菊千代本人がこんな姿でうろうろしているのを誰かに見られるわけにはいかなかった。共に暮らしてきた遊女たちならば、商人姿の菊千代でも簡単にばれてしまう可能性が高い。饅頭屋と菊千代がどうして一緒にいるのかと問われれば、返す言葉もない。行燈部屋にこもる全員が緊張した面持ちで耳を澄ませる。
 ここからが大門を入るよりも難しい。民子が待つ二階の角部屋へ行くには、階段を登らなければならないが、二か所ある階段のどちらも、廊下からも玄関からも見える場所にある。お藤は、饅頭を食べに来ない男衆もしつこく呼び、廓内の者は番頭以外は皆、一階の一部屋へ集められた。
 佐之吉はいったん行燈部屋から廊下へ出て、今、階段が見える位置にいるのは、事情を知っている番頭だけしかいないことを確認した。
「よし、今だ。姐さん」
 菊千代は頷き、義理弟と用心棒に会釈して行燈部屋から出た。
 階段を上ると、ミシッ、ミシッ、と木がきしむ音がどうしても出てしまう。ゆっくりと体重を移動させても音は消せない。佐之吉は額に汗を浮かべ、とっさに声を出した。
「おかみさーん、俺の分も残しといてくだせえよー、掃除が終わったらすぐに取りに行くからー」
「はいよー」
 遠くの部屋から返事が返ってくる。
 ――音がしても大丈夫だ。
 菊千代は佐之吉と目を合わせ、歩調を合わせてきしむ階段を上がって行った。
 
 民子が待つ菊千代の部屋へ無事到着。佐之吉は廊下であちこちに目をやりながら、無言で菊千代を促した。菊千代は静かに襖を開けて中へ入る。
「はぁ……やっと着いた。民ちゃん……」
「おねえちゃん!」
「よかった、姐さんご無事で」
 民子は病人らしく横になっており、小梅が付き添っていた。
「遅くなってごめんね」
 菊千代は、小梅の手を借りて着物を交換すると、さきほどまで民子が寝ていたかさね布団に崩れるように横になった。
 夫が行燈部屋で待っていると聞いた民子は、先ほどまで菊千代がしていた綿の頬かむりをし、急いで出て行こうと立ちあがったが、激しく咳き込む姉の様子に別れをためらった。民子は横たわる姉のかさね布団の横に座り込んだ。
「あたし、もう行くけど、本当に大丈夫?」
「姐さん、薬湯をつくりやしょうか?」
 菊千代は小さな呼吸を繰り返し、どうにか息を整えた。
「遠かった……松川楼は大門からこんなに歩かないと着かないって……とっても疲れた……」
 民子と小梅はちらっと視線を合わせた。そう遠くもない距離を遠いと感じるとは。二人は、菊千代の死期が迫っていることを強く感じ、いよいよ布団のそばから離れられなくなった。しかし今ならば、この部屋付近にいるのは佐之吉だけ。帰るなら今すぐ。民子を連れ出そうと廊下で見張りながら待っている佐之吉も気が気でないだろう。饅頭を食べ終われば、遊女たちが廊下へ出てきてしまう。
「おねえちゃん、時間がない。夫が待ってるの。ごめんね」
「民ちゃん……」
 しぼりだすような菊千代の声。情を断ち切るように背を向けて出て行きかけた民子の足が止まる。
「会えてよかった。今日は今生の別れ。わっちとはもう会えやせんけど、幸せになりんせ……」
 横に控えていた小梅が即座に口をはさむ。
「姐さん、そんな心細いこと言わないでください。民子さんが安心して帰れないじゃないですか」
「ふっ……自分の体は自分が一番ようわかりんす。だから、無理してでも今日ここへ戻ってきやした。兵衛様の家で死んで民ちゃんと交代できなくなったら、取り返しがつきいせんに」
 菊千代は、廓言葉まじりにつぶやきながら、苦しそうに胸を上下させ、心配で帰るに帰れない民子の方へ手を伸ばした。
「民ちゃん……これではいつまでたってもご主人のところへ戻れえせんなあ。はよう帰りたいなら、ひと思いにこの首を絞めて殺してくんなまし」
「ちょっと、おねえちゃん! 何を言っているのよ」
「苦しい、苦しゅうてたまりいせんから、今すぐ死なせて。そしたら、民ちゃんも心おきなく帰れやす。でも三途の川へは……憎いあの男と一緒の場所へは絶対に行きんせん。今逝けば、大嫌いな三助が、三途の川の手前で待っているに決まっていやあす。だからね、頼みごと。わっちを殺したら、わっちの血を使ってこの指で呪いの文字を書いてくんなまし。呪いを込めてあの男の名をこの血で書けば、わっちはあの男と一緒にはならないで済むかもしれえせん。民ちゃん……この人生を最期にしておくれえな。わっちを……殺して」
 民子は廊下の方に目をやった。まだ誰も出てきていないようだが、いつまでも別れを惜しんではいられない。
「それで気が済むなら。本当にいいの?」
 気がせく民子は、気絶させるだけのつもりで形だけ姉の首に腰紐を絡めた。咳き込んでばかりいる姉をぐっすり眠らせてやろうと思った。
「ああ……これで……楽になれる。民ちゃん、ありがと」
 民子は軽く紐を引いたが、首を絞められてさらに苦しそうな顔になった姉の様子に、手が震えて力が入らない。気絶させるだけ、と自分に言い聞かせても、強く紐を引くことをためらってしまう。
「だめ。できない、できないよう。おねえちゃんを殺すなんて。おねえちゃんは私と違って、昔からなんでもできて、きれいで、賢くて、妬ましかった。でも……殺すなんて、できない」
「……ならもういい……旦那さんの元へ帰りんせ」
 菊千代はまた咳き込み、ヒュウと喉を鳴らすと、ゲホッと口から血をこぼした。
「ああっ、おねえちゃん!」
 小梅も「姐さん」と声をかけ、口元を濡れた布で拭いてやる。
「そろそろお願いします。食べるのが早い男衆が動き出しちまう。これ以上は」
 廊下から佐之吉がせかす。
「少しだけ待って、おねえちゃんが」
 民子の声に、菊千代はいったん閉じたまぶたを細く開いた。
「民ちゃん……帰るときはそこの手文庫のお金を小梅ちゃんと分けて持って行きなんし。わっちが体をはって稼いだ銭ゆえ、安心しとくれやす。それから、わっちが持ってきた大門出入り用の札を忘れずに。はよう――」
 菊千代の話は途中で途切れ、まぶたが静かに落ちた。
「おねえちゃん、おねえちゃん!」
 民子が飛びついて夜着の上のから菊千代の肩をゆすった。
 菊千代の首はカクカクと力なく揺れる。咳すら出なかった。
「っ……菊千代姐さん……」
「息が……おねえちゃんが死んじゃった」
「民子さん」
 廊下から佐之吉の声がする。
 民子と小梅はしばらく号泣していたが、状況を知らない廊下の佐之吉は何度もせかす。いつまでもそのままではいられない。
「佐之吉さん、どうしよう……」 
 小梅は泣きながら佐之吉に事情を話し、饅頭で皆を引き留めているお藤をここへ呼んでもらった。小梅たちの分の饅頭を持って上がってきたお藤は、哀れな菊千代の体を前に手を合わせながら、首を左右に振った。
「なんてこった……もう死んじまったのかい。このままではいけないね。あの同心の清太郎旦那が今来たら、うちは終わりだよ。この前会ったのは、替え玉だったと悟られちゃあ困る」
 このまま民子が静かに帰って交代に成功したとしても、菊千代は病死ではなく変死の扱いになるだろうことは誰にでも容易に想像できた。菊千代の首についている紐跡、顔にある殴られたあざ、切られた前髪の一部はとても目につく。遊女が酔った客に暴力を振るわれる場合もあるが、客を取っていない花魁では首の絞め痕の言い訳まですることは難しい。八丁堀からまた取り調べが来るかもしれない状況。これを黙って病死扱いしようとしているときに見つかれば、どうなるかわからない。
「運がよければ密かに病死で済むけどねえ……いいや、危ないことはしない。あの近江清太郎って旦那が来る前にこっちから通報した方が無難だね。仕方がない、うちの評判にかかわるから、あまりおおごとにしたくなかったけど、今後のために事件らしく謎に包んだ方がよさそうだよ。菊千代には気の毒だけど、きっとわかってくれるだろうよ。いつまでも身代わりを頼むわけにはいかないからね」
 お藤は小声で指示を出した
「そんな、内儀さん、それは酷いです。そこまでしなくてもこのまま……」
 小梅は唇をひきつらせてお藤の命令を拒んだ。
「そんなこと言っていたら、この松川楼は兵衛様につぶされるよ。民子さんの婚家もね。さっさとおやり。時間がないよ。そのうちみんなに気付かれちまう。饅頭がなくなっても、できるだけみんなを引き留めておくから、今のうちにやりな。終わったら、しばらく時間をおいてから大騒ぎするんだよ。いいね? 小梅に疑いがかからないよううまくやるから、民子さんも手伝っとくれ。いつまでもご主人を待たすわけにはいかないだろうが」
 お藤は他の者に悟られないよう下へ戻っていった。小梅と民子は、泣きながらも大急ぎで行動を開始した。
「姐さん、ごめんなさい」
「やるしかないの……」
 佐之吉を引き続き見張りに立たせ、小梅は民子と協力してまだ温かい菊千代の躯を引きずり、殴られたあざが出来ているその顔と切られた前髪を隠す為、歯を食いしばって火鉢で汚した。さらに、首の紐跡が不自然に見えないよう、腰ひもを巻きつけておいた。
「姐さんの遺体をこんなふうに……悲しい……こんなことでごまかせるとはあたしは思わない。あたし、本当のことを話せばいいと思います。この廓なんて、なくなったっていいんだから」
「同感だけど、ここの内儀さんがそう言うなら、言う通りにするしかないよね。小梅ちゃん、せめておねえちゃんの望みを叶えてあげましょうよ。三助さんの名前を書くと、兵衛様に足がつくかもしれないけど、もうどうなったって知らない。たったひとりの姉が死に際に願った血文字ぐらい書いてやったっていいでしょう? ちょっと手伝って」
 二人で協力し、菊千代の遺言通り、彼女自身の血と指を使って呪いの血文字を書いた。
「おねえちゃん……これで疫病神男とあの世で一緒になることはないから安心してね、ごめん、さよなら」
 民子は、唇を噛みながら姉の部屋を去った。佐之吉と共に足音をできるだけ立てないよう気を付けながら階段を駆け下りる。
 奥の部屋からは、お藤がみんなを集めて、この妓楼の将来についてのことについて話している声が聞こえてきた。
 民子は誰にも会うことなく行燈部屋に到着。今か、今か、と息を殺して待っていた民子の夫と用心棒も大汗をかいていた。
「遅かったな」
「あんたっ、長いことごめんね。おねえちゃんが死んじゃったの」
「えっ、義姉様が今? さっきまで話していたのに」
 夫は事情を聴こうとしたが、佐之吉が話を遮った。
「すみません、お話は後で。ここに誰もいないうちに早く外へ」
 佐之吉は三人と一緒に表に出ると、商人を送り出すときの、型通りの挨拶をした。
 三人は空になった饅頭の木箱を抱え、頭を下げると、通りを歩く行商人に混じって大門方面へ向かった。実の姉を亡くしたばかりの民子は、涙を指ではらいながら、下を向いたまま夫の後ろを歩いて行く。佐之吉は祈るような気持ちで一行の後ろ姿を見送った。


 民子にとって最後の関所、吉原大門。ここさえ無事に抜けることができれば、この先は問題なく婚家へ帰れる。大門が徐々に近づいてくる。通りの両側に並ぶ茶屋には、一行を眺めている者もいるが、通りは他の行商人たちの行き来もある。目立ちはしていないはずだ。女がさっきと入れ替わっているとは誰も思っていないだろう。
 民子は、頬かむりで顔を半分近くを隠したまま、大門の手前で菊千代が入ってくるときに入手した札を返した。そのまま大門を通り過ぎようとすると――
「おい、待て」
 見張りの男の声に呼び止められた。行きに饅頭を渡した男だった。
「先ほどの饅頭屋です。ほれ」
 夫が応対し、そっと民子の頬かむりをずらして顔を示した。見張りの男は民子を注視せず、笑い顔を見せた。
「待っていたのだ。ひとつ売ってくれ」
「申し訳ごぜえません。おかげさまで全部はけまして」
「なんだ、ひとつも残っていねえのか。さっきもらった饅頭がうまかったんでな、女房に買ってやろうと思ったんだがな」
「ありがてぇことでごぜえます。浅草で店を出しておりやすから、機会があればよろしくお願えしやす」
 三人はペコペコと頭を下げて大門を抜けた。
 
 現場に残った小梅は、お藤に言われたとおりに、民子たちが完全に吉原から出たであろう時間を見計らい、菊千代が死んでいると騒ぎ声をあげた。そして通報。八丁堀から同心の近江清太郎が部下と共にこの妓楼に来て、火鉢に顔を突っ込んだ菊千代の躯をみることになった。



 <前話    目次   >次話       ホーム