番外編 届いた贈り物 2011/6/10(約1800字) 2013/1/7後編加筆
ガルモ家に届いた、ある贈り物の話。年齢制限はありませんが、ちょっぴり大人向け^^;
※この番外編は本篇最終話の後の話なので、激しくネタばれを含みます。文中に出てくる書名は、現実に出回っている書籍とは無関係です。
ジーク王子の結婚一周年の祝宴があった日以来、ガルモ家には、エディンの結婚を祝う品が次々届いていた。
ここ数年、まったく付き合いがなかったような人物からの祝いも珍しくなかったが、なによりもエディンを驚かせたのは、城の医術師、ロムゼウから贈り物が届いたことだった。
ロムゼウは、ジーク王子の寝室で、アリシアの裸を見て鼻血をたらした男。アリシアが賊の一味ではないかと疑っていたロムゼウは、あの時、エディンには厳しい目を向けており、エディンのことは決してよくは思っていなかったはず。それでも、エディンの結婚が明らかにされてすぐに祝いの品を贈ってくるとは、やはり、他の人間と同様、エディンの、王子への影響力を考えているらしい。
「ロムゼウって、あの医術師の人ね。ちょっと目つきの悪い。何これ、重いわ」
アリシアがエディンの目の前で、箱に入れられた贈り物を開封した。
本が数冊入っており、さらに、紙に包まれた『何か』が詰め込まれていた。厚手の本はすべて、白い布カバーが掛けられており、本のタイトルも作家名も、表紙だけではわからない。
エディンは、本を一冊手に取って、開いた。
「わっ!」
すぐに本を閉じてしまったエディンの手から、アリシアが本を取り上げ開いたが、彼女もすぐに閉じた。
「なんなの、この本。これが結婚祝いですって? いかにも、あの変態じじいの好きそうな本だこと!」
「そんな失礼なことを言ってはいけないよ。これは、たぶん、医学書だと……思う……」
「これ、もしかして全部そっち系の本?」
エディンとアリシアは本をすべて箱から取り出し、パラパラとめくった。
全部、ふーん、な本ばかり。どれもこれも、ところどころ、解説が入った、着衣なしの男女の絵がはさまっている。
これは医学の書だ! と言われれば、そうなのかもしれないが、人前で堂々と開くには勇気がいる内容だった。
「さすがは医術師の本。内容がすごく細かい」
「エディン、じっと見ないで。こんなのいらないんだから、捨てましょう」
「捨てるって……もったいない。こういう本はとても高価だと思うよ。せっかくいただいたのだから、ひととおり読んでからでも」
「本でいちいち解説してくれなくったって、わたしとエディンはちゃんと…………でしょ? ね?」
「……はい……奥様」
エディンは、赤い顔になってアリシアから目を反らし、話題を変えた。
「こっちの袋はなんだろう?」
エディンは、謎の紙包みを手に取った。白っぽい紙で包まれたそれは、本のような重さはない。
手に伝わる、でこぼこした形状に、疑問を抱きながら開くと。
「わっ」
「なに?」
「これは……まいったな。あの人は、僕がそういう趣味だと思っているんだ」
荷物の中には、手紙が添えられていた。エディンの結婚を祝う形式どおりの言葉と共に、贈り物について丁寧な説明が。
『――伯爵様におかれましては、送付した書籍のうち、「夜/の/営み〜真実/の/愛/の/あり方」という題名の本が最もお勧めでございます。伯爵様は、まだお若いゆえ、いつでもどこでも愛し合いたいというお気持ちがおありだと存じますが、女性の体とはそういうものではなく――』
「……で、包みの方の品は加減して使えって書いてある。これで奥方が怪我をしたら、自分が無料で診てやるって。あの人……ははは……」
エディンは、声を出して笑った。
「笑っている場合じゃないわ。いやらしい医術師! あの時だって、私の体をじろじろ見て。こんな品だから、自分で直接祝いを持って来なかったのよ」
「誰だって男なら、裸の女性がそこにいたら見てしまうのは、仕方が――」
「エディン!」
アリシアが目をむく。恐ろしい剣幕に、エディンは笑うのを止め、身を縮めた。
「アリシアがきれいだったから……その……見たくなったのだと……と、とにかく、こっちの品はいらないな?」
エディンは、手に持っていた紙の包みごと床へ放り投げた。ガシャン、と金属音。
「全部いらないわよ!」
アリシアが、本たちをぶちまけた。
夫婦の部屋の床に散らかった、医術師ロムゼウの贈り物たち。
それは、彼が他の人とかぶらないような品を、考えに考えた末、苦労して入手したものだった。
男女の体に関する貴重本数冊と、麻紐で束ねられた、ムチと手錠。
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