4. 


 雑誌発売日から三日後の週末、文芸部の四人は、大学近くの日南子の下宿に集まった。
 独り用コタツの上には四つのコップに注がれたビール。おつまみ用のポテトチップスや豆などが並ぶ。
「乾杯! 入賞おめでとう、幹雄君、綾ちゃん」
 日南子の声と共に、四つのコップが、音を立てて合わさった。
「大賞を逃したけどうれしい。幹雄君の案がよかったんだよね」
 一気にコップを開けた綾は、いつもよりも声が高めになっている。
「いや、俺の案じゃなくてさ、改稿してエロさを出した綾ちゃんの勝利だよな」
「すごいよ、何度見ても。佳作に入賞なんていいなあ。あたしと巧君のなんて、残りもしなかったんだから」
 巧が頷く。
「やっぱりエロ路線を入れたことが勝因かもしれません。僕もこれからはもっと色気を重視した作品を書くよう心がけます」
「いや、おまえのって充分エロ路線だと俺は思うけどな。ま、今回は、予定よりはちと金額が減っちまったけど、俺は一万円でもいいや。雑誌に載せてもらえただけでありがたい。ほんとうに『トマトの情熱』が雑誌に全文出てるんだぞ」
 一同はコタツの上に置かれた『文笑』の作品ページを何度も開いては満足の笑い声をあげた。



 勝利の祝い会をやってから一週間ほど後、学生食堂でクラスの友人と食事をしていた幹雄のところに、綾からメールが入った。
【今すぐ会えない? 二人だけで話がしたい】
 幹雄は腕時計を確認した。昼からの授業開始までにはまだ三十分程度の時間がある。
「今度は何だよ」
 綾の呼び出しはろくなことがない。車をあてにした買い物の頼みか、そうでないなら、部外者の彼氏への愚痴を聞かされるかどちらかに決まっている。綾はこれまでにも、彼氏とけんかするたび、部活中に愚痴とものろけともつかぬ話をすることがたびたびあった。幹雄のところへメールが来たということは、今の時間、他の誰も捕まらなかったのだろう。気は乗らないが、時間もあることだし、すぐに会いたいと言っているのを冷たく断ることもない。
 幹雄は落ち会う場所を確認すると、学食を一緒に食べた友人と別れ、そこへ向かった。


 大学の研究棟の裏にある噴水の前、綾は、茶色い革製のリュックを抱きかかえるようにして背を丸めてベンチに座っていた。猫背になり、いつものはつらつとした綾らしさがない。ポニーテールも心なしか下がり気味に見える。
「どうしたんだよ、また彼氏とけんかでも――」
 幹雄は言いかけの言葉を止めた。
 綾はハンカチを握りしめたまま顔を上げると、力ない小さな声で「幹雄君、ごめんね」と言った。目が真っ赤だった。



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