3. 


 そして十か月が経過。応募時に初夏だった季節は冬になっていた。
 今日は待ちに待った『文笑』発売日。今日の刊で三次選考結果と入賞者が同時に発表される。
 部室に集まった文芸部の部員たちは、雑誌を買いに行った幹雄が戻って来るのを、今か、今かと待っていた。皆、パソコンを開くも、皆落ち着かず、文章にならずで、無駄にネットニュースなどを見て時間を持て余す。
 綾は少しいらだちぎみに腕時計に目をやった。
「幹雄君、遅いね。どこの本屋さんまで買いに行ったの」
「知らない。お店にまだ出てなくて、遠くの本屋さんまで行ったのかも。車持ちはいいな。車があるならどこまででも行けちゃうもんね」
「幹雄先輩のことだから、書店へ行ったら、ついでに立ち読みでもしているんじゃないでしょうか」
「私たちが待っているのに?」
 
 幹雄との共同作品『トマトの情熱』は奇跡のように二次選考まで生き残った。ここにいる部員たちが出した作品は、他はすべて一次にも残らず全滅している。
「遅いよう。やっぱり残っていなかったのかな。幹雄君、落選のショックでここへ戻る気が失せちゃったとか」
「大丈夫だよ、綾ちゃん。あたし、きっと残っていると思う」
「どうかな。三十枚ではちょっと短かったかも。二次まで残って満足すべきだよね。もうっ、幹雄君遅いなあ」
 皆がぶつぶつと言っていると、ようやく幹雄がドアを開けて入ってきた。
「遅いじゃないのよ。結果見た?」
「まだだよ」
 幹雄は、まだ紐がかかっている『文笑』を紙袋から出すと、高々と頭上に掲げた。
「皆の者、覚悟はよいか」
「もったいぶらないで、はやく見せてよ。どうか神様ぁ、もう二度とないかもしれない二次選考生き残りの喜びをつぶさないで」
 綾は祈るように指を組んだ。それをまねて、巧と日南子も指を組んで祈りのポーズをとる。
「今更祈るなよ。ヤベエ、買ってきた俺まで緊張してきた。結果を知りたいけど、知りたくない。ま、ダメもとで」
 と言いつつ、なかなか開封しない幹雄に、綾が催促する。
「じらさないでよ。三十万もらえたら、みんなでおいしい物を食べに行くんだから」
「先輩、僕もはやく結果を知りたいですよ。名前が残っていたらお祝い会しましょう」
「おまえら、落ち着けよ。俺は残ってないような気がする。やっぱ、元ネタがしょぼいからさ……」
「どうでもいいから早くってば! いつになったら見せてくれるのよ」
「わかったよ。今見せてやる」
 そんな声の中、はさみで雑誌の紐が切られ、幹雄が選考通過者の名前一覧のページをぱらぱらめくって探した。
 綾、日南子、巧が顔を寄せ合い、食いつくような四人の視線がB五サイズの雑誌に注がれる。
 発表ページを見るなり、四つの口から大声が飛び出した。



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