おふざけ二次創作集

3.カメよ、泣くな(うらしま太郎)


 カメを助けたことから、カメに惚れてしまった、うらしま太郎。竜宮城から帰る時も、同じカメに浜まで送ってもらいました。静かな波が、別れの時を告げます。
「カメよ。ありがとう。竜宮まで連れて行ってくれた君のことは忘れないよ……」
 カメは潤んだ瞳でうらしま太郎を見上げました。苦しくせつなげなその表情に、うらしまの瞳にも涙があふれてきます。うらしまは、自分の涙が流れないように、必死でこらえながら、カメの首筋をやさしくなでてやりました。
「カメ、君は泣いてくれるのか? 僕と同じで、別れが悲しんだね。それなら、今日から僕の家で暮らさないか? 僕の家は海も近いから、君も気にいってくれると思うよ」
 カメは静かに、首を横に振りました。
「なぜだ。君は僕とはこれきりにするつもりなのか? 僕は君の上に乗れて、とても幸せだったんだ。君だって、僕のことを――カメ、気持ちを隠さないでくれ。僕ともう会えなくてもいいのか? 僕はいやだ。カメ、僕と一緒に暮らそう。幸せにするよ。絶対に大切にするから」
 うらしまはしゃがみこんで、カメを見つめました。それでもカメは涙を流しながら、首を横に振り続けます。別れのさびしさから、苦しそうに呼吸を乱しているカメに、うらしまはたくましい手で、甲羅をさすってやりました。カメは、ぽろぽろと涙をこぼしました。
「なあ、カメ。僕は君がカメでもかまわない。別れなければ、そんなに泣くこともないじゃないか。おまえ……カメ? おいっ、どうしたんだ」
 カメは突然、うなりごえをあげると、卵を産み始めました。うらしまは驚いてカメを見つめます。
「おまえ……そうか、そうだったのか……俺の卵を産んでくれているんだな」
 うらしまはにこにことカメの産卵を見守ります。やがて、すべての卵を産み終えたカメは、ようやく口をききました。
「うらしま! いいかげんにしやー! 誰があんたの子なんか産むかい。あたしゃあ卵を産みに浜へ来ただけであんたのことなんか、なんとも思ってないよ〜。産卵ついでにここまで乗せてやっただけで、恋人づらかい。卵を産みたくて、苦しくてたまらないのに、ごちゃごちゃ話を引きのばして。おかげで穴を掘る暇もなかったじゃないか。卵たちが死んじまったら、どうしてくれるんだよ、このまぬけ男がぁ!」
 カメはそう言うなり、手足をひっこめると、うらしまに向かって宙を飛んで、甲羅で体当たりを食らわせました。
「!」
 カメの突撃に、よろめいたうらしまは、玉手箱を落としてしまいました。箱のフタが開き、煙がもくもく出て――
「うわぁぁぁ!」

 うらしま太郎は、いえ、太郎だけでなく、カメと卵たちも……その場で全部化石になってしまいました。これで二人は永遠に一緒です。めでたしめでたし……?
……でしょう。たぶん。
  
(おしまい)

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