菜宮雪の空想箱

妄想物語4


         「ある朝の憂鬱」


目ざまし時計が鳴る
ピピピピ ピピピピ
手探りで止める
ぼんやりする目で 時間を確認
もう朝か
会社になんか 行きたくない
仕事なんか やりたくない
うつぶせで 枕に頬ずり

スリスリ フンフン

いつまでも こうしていたい

スリスリ モフモフ

それでも 時は 待ってはくれない
なごりおしいが ふとんから這い出る
ぬくもりが 熱源を失い 
ふとんの口から 逃げ去ってゆく
冬の冷たい空気が それとばかりに 肩を冷やしてくる
外は 強い冬の風
電線が うなる
きしむ木々の悲鳴が 絶え間なく続いている
今日も この中へ 出ていかなければ


閉めてある雨戸が 揺すられる

ガタガタ ガタガタ

開けろ さっさと開けろ
開けたら 寒風の思うつぼ
頭の芯まで 凍えるだろう
雨戸開けは 後でいい

風の音は 途切れない
今日は 特に酷い
だから 会社に行きたくない
こんなに 風が強くても
会社は 今日もある 

ストーブをつけ その前に張り付く
服を広げて あたためる 
仕方がない 着替えるか
今日も がんばろう

おや 靴下の中に 異物が
つま先に 小さな違和感
なんだ 石か
どうして 靴下の中に石が
よけいに 出かけたくなくなる
無意識に 舌うち
石め こんな石どこから―― 

……いや違う 

うそだろう?
これは 
これは 石じゃない
石から 汁が出るわけがない
絶対に 汁が出るわけがない
靴下にしみ出てくる 茶色い微量の液体
しかも この臭い
一度嗅いだら 忘れられない この臭い
幸せにはなれない この臭い

思わず声がでた
「うあー!」

はきかけの靴下を 慌てて脱ぎ 
素早く 裏返す

やっぱりおまえか……

予想どおり 小さなカメムシが そこにいた







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